ベトナムへ一週間ほど観光旅行してきた。じつに興味深い旅だった。気になったことを報告しよう。まずはホテルから。
南部の主要都市ホーチミン市(かつてのサイゴン)には、フランスが植民地時代につくった建築が数多く残されている。これはその中でも最も美しいホテル・マジェスティックである。
20世紀初頭にできた。ここに泊まれば、100年前の植民地時代の様式建築を味わうことができる。
じつにユニークなデザインだ。フランス建築の優雅な雰囲気がよく残されている。
古い写真を見ると、創建当時は、アールヌーボーだったことがわかる。何度かの戦火をかいくぐって100年近くたって、外観のデザインは随分変化したわけだ。
ベトナムは日本の明治維新のころフランスから侵略され、明治、大正、昭和戦前に相当する約80年間植民地とされた。ベトナムの近代はフランスの手によって推進されたわけだ。
メインのエントランスホールはじつに豪華なデザインだ。華やかでしかも気品がある。このホテルは植民地支配者にとってホーチミン市で最高の社交の場だった。貧しい庶民をよそにここにパリの社交界が持ち込まれたわけだ。
玄関のドア。美しいデザインだ。
玄関ホールの天井シャンデリア廻りのステンドグラス。
客室の廊下をつなぐ階段。
廊下のじゅうたんは複雑な形に合わせて織り上げてあり、継ぎ目は見えない。
屋上に設けられたダイニングルーム。眼下に貨物船や観光ボートが行き交う大河サイゴン川がゆったりと流れている。川面にはホテイアオイという名の浮き草が次々に流されて、いかにも南国らしいのどかな風景を見せている。川を眺めながらの朝食は、朝から30度を越える気温にも関わらず、さわやかに楽しませてくれる。
年老いたアメリカ人観光客は、かつての戦場の思いでを妻に聞かせているのだろうか。
外側の客室はサイゴン川を望むが、内側の客室は小さな中庭を囲む形になっている。
多少狭苦しい中庭にはプールがつくられていた。オートバイの溢れる街路を尻目にここは別天地のように静かだ。
「日本の作家開高健は1964年末から65年までサイゴンに滞在して、開高健はマジェスティック・ホテル103号室に滞在していました。(現ホーチミン市)毎週、開高健は、週刊朝日にいろいろな記事をよく送りました。ベトナム戦記について書きました。」
これは103号室のドアの脇に付けられている記念プレートである。
開高健は、デモ、公開処刑、ジャングルの戦闘現場へと飛び出しては、ぼろぼろになってこの部屋のベッドに倒れ込んだ。(開高健著『ベトナム戦記』朝日文庫)
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