ベトナム北部の主要都市ハノイを代表するホテル。フランス植民地時代の堂々たる建築だ。1901と、その創業の年を誇らしげに刻んでいる。
『建築のハノイ』(増田彰久・太田省一、白揚社)にこれと同じ写真が出ている。しかし、そこには年号がない。ということは、年号は最近つけたものらしい。
このホテルの周辺では、花嫁花婿姿の夫婦がモデルとなって記念写真をとる姿が常に何組も見られる。ベトナムの人々にとってもあこがれの場所であるらしい。
ホテルはいかにもベトナムらしい並木の大通りに面している。ハノイもオートバイの洪水だ。彼らはオートバイのことをホンダと呼んでいる。
このホテルの魅力の一つだが、なにせ、オートバイの排気ガスのせいで空気が悪い。
外観の純粋な西洋様式建築に反して、インテリアはかなり中華趣味でまとめられているのに驚かされた。ハノイは中国に近いことをあらためて感じた瞬間である。
ベトナムへは歴史も地理も何も知らずに行ったので、いろいろ驚きがあった。もっとも驚いたのは、ベトナム人の名前に漢字があるということだった。
案内してくれたガイドさんがSONさんだったが、山という漢字の名前もあるので正確にはソンとサンの中間の発音です、といわれたのだ。なんとベトナムの人の名前は漢字をベースにしているのだ、ということはベトナム文化のベースには中華文明がしっかり横たわっているのだ、ということに気がついた。そういえばベトナムは1,000年にわたって中国に支配されていたのだった。
中国の影響は、ここハノイでもっとも強く感じさせられた。
このしっとりとした雰囲気は中華趣味としかいいようがない。
しかし、ベトナム人の中国に対する気持は複雑だ。中国はベトナムに対して火力発電所、道路などインフラの援助を行なっているが、警戒感が強い。
長い中国による支配、侵略の歴史など不愉快な記憶が強く残っているのだ。経済的な提携はむしろ日本、アメリカ等西欧諸国に期待しているようだ。日本語学習熱もかなりさかんのようだ。
ヨーロッパ人の東洋へのあこがれを、絵に描いたような、オリエント趣味の中庭だ。サマセット・モームをはじめ有名な政治家、女優などアジアを愛した多くの著名人の宿泊記録がロビーに誇らしげにかかげてある。
中庭バーのランタン。幻想的な東洋趣味の明かりが、誘惑している。すべてを忘れていつまでもここに滞在したい、そんな気にいざなう危険な妖気が漂っている。
ゴーギャンやモームたちを誘惑した東洋の魔力を思わずにいられない。
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