やって来ました。代官山蔦屋書店。
第一印象は、意外と控えめな建築だ。
屋敷跡の大きな樹木が残され、建築が半ば覆い隠されている。
よく見ると、このファサード、蔦屋のT、TカードのTだ。Tの字をそのまま建築にしてしまった。控えめに見えた建築は強烈なメッセージを発していることに気がついた。
近寄るとなんとも手がかりの希薄なフラットなファサード。非常に淡白な印象だ。
丁寧な植栽。端正な佇まい。アプローチは快適だ。
同じような長方形の建築が三つ雁行して並んでいる。
最初の建築の入口。非常に小さな入口。極めて控えめなエントランスまわりだ。大げさなものは何もない。建築としては、単なる箱だ。
二つ目の建物と結ぶ入口。サインボードには「2F MOVIE 1F BOOKS」と表示されている。つまりこの一つ目の建物は本と映画の棟だということだ。
そして、この壁。すべてTの字、つまり蔦屋のTでできている。建築全体の形も外壁もすべて「T」なのだ。
Tの文字は膨らんでいる。このため外壁は竹の籠のように透けている。
つまり、この建築は蔦屋のロゴを組み合わせた籠つまり包装紙のようなものなのだ。
この建築、プロポーザル方式で設計者を選んだ。そのオリエンテーションには日本を代表する設計事務所80社が参加した。そのブリーフィングで蔦屋(CCC)社長の増田宗昭は蔦屋グループにとってTがいかに大切かを力説した。これを聞いたアストリッド・クラインはピンときた。Tの字こそキーワードだ。帰りの道を歩きながら「ねぇねぇ、やっぱり”T"じゃない?」とクラインは浮かれたように語り続けた。この瞬間にクライン ダイサム アーキテクツの勝利は決定したのだ。
この店、全国に1400の店舗を展開するCDレンタルショップ蔦屋つまりTUTAYAの総力を結集した旗艦店だ。これを経営するのはCCC=カルチュア・コンビニエンス・クラブという企画会社だが、これこそ蔦屋書店の頭脳部隊なのだ。それを創業し、牽引しているのが増田宗昭、希代のアイデアマンだ。この店のコンテンツは増田の頭から生まれた。
ここには、書店があり、CDと映画のレンタルショップがあり、文具店がある。そして、いたるところにカフェがあり、レストランがある。それらが渾然一体となっている。この写真のレストランは周りの壁が全て書棚になっているが、ここに「暮しの手帖」「都市住宅」「a+u」「東京人」などのバックナンバーがずらーと並んでいるのだ。お茶を飲みながら、食事をしながら読んでいいですよ。といわば図書館のような雰囲気を出しているのだ。
CDもここでコーヒーを飲みながら、かなり自由に試聴できる。じつに快適だ。
いたるところに展開している書店の書棚の関連グッズがまた楽しい。文具のコーナーには世界中の高級万年筆が並んでいる。一本200万円もする蒔絵の万年筆まである。写真書棚のそばには280万円の特別仕様の赤いハッセルブラッドがある。
いたるところにカフェがあり、本棚の本を手に取ってコーヒーを飲みながらゆっくり読んでよい。
ゆったりとした空間、大きなソファー。グランドピアノまである。
森の中の図書館と謳っているが、たしかに建築の回りの露地、植え込みが実に繊細でよくできている。外回りも快適だ。
カフェは建物のそとにはみ出し、外部空間も快適な場所になっている。
広大な敷地を生かして、子ずれでも安心して歩ける街のような空間を作り出している。
空間にゆとりがあり、贅沢な気分にひたることができる。
裏側にはすこし気分を変えたレストランやカメラ、自転車、玩具のショップが数棟並んでいる。
既存の樹木をよく生かしている。丁寧な扱いで、梢の先まで大切に残されているのが実に気持ちがよい。
平屋のレストランでは、半戸外の贅沢な食事がゆっくりと楽しめる、
ドッグランの存在を示す大きな犬のオブジェ。つまりここには犬をつれて遊びにおいで、と言っているのだ。
ここがドッグランだ。
ここは建築というより、街に近い。複数の建築が作り出す外部空間が変化に富んでおり、回遊する楽しみも十分与えてくれる。
CCCの増田宗昭が頭の中で十分熟成させた構想を、クライン ダイサムは軽やかに受け止め、見事に結実させた。協同設計:RIA。
もっとも建築は包装紙、中身は増田の熱い思いを、デザイナー、プランナー、ランドスケープデザイナーと協力してリッチな空間にまとめあげたものだ。
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