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新宿の目(新宿西口広場のアート)

新宿西口広場が解体されようとしている。

その一角にスバルビルがあったが、すでに地上部分は解体されてしまった。

かろうじてその地下に設置された巨大な目玉が残っている。

新宿西口を利用していた人ならみんな知っているはずだ。

「新宿の目」しかし、それは誰が作ったものか、ほとんどの人は知らないままだ。

まして、どんな意味があるのか、考えた人はいるだろうか。

改めてよく見るとなかなか力強い目玉だということがわかる。

この目玉は一体何を見ているのだろう。

そこには、なんの説明もない。

ただし、右下に「作 宮下芳子」と書かれた立派な銘板がある。

宮下芳子とはどんな人なのか。

疑問に思っていたところ、2022年12月3日、テレビ東京「新美の巨人 新宿西口広場(新宿西口物語)」という番組が放映された。

 

 

そこに目玉の作者が登場したのだ。

そう、彫刻家、宮下芳子が登場したのだ。

なんと、真っ赤なドレスを着た女傑だった。

女子美を卒業して、パリを舞台に彫刻家として活躍したらしい。

 

そして、彼女が新宿の現場に案内された時、その場で、大きな目玉を作ろうと思ったという。

「世の移り変わりを見る目玉」を作ります。

彼女はそう答えた。

 

しかし、本当は、と彼女は本心を明かす。本当は、

「いい男が歩かないかなって見ている目」

を作ったのだという。

「そんな気持ちを失ったら終わりよ」

と彼女は言い放った。

 

なんとも豪快な生き方だ。

オン年92歳、ぜんぜん枯れていない。

見事な女傑だった。

 

こんな人が作ったことをもっと早く知りたかったなあ。

知っていれば、西口広場がもっともっと魅力的になったのに。

 

小田急デパートは営業を終わり、解体作業が始まっている。

広場は、建築家 坂倉準三のデザインで、丸く大きな穴があいた広場となったが、至る所に使われたタイルはなんとも親しみ深く、いろんな思い出を受け止めてくれている。

色合い、微妙に混ざった色タイル。その光、艶、手触り。

全てが愛おしい。

 

改めて見惚れてしまう。

丸く、太い、ステンレスの車止め。大きな丸さが、しっかりと受け止めてくれる。これも西口の風景を作っていました。

 

穴からチラチラ見える超高層ビル群。

 

タクシーがぐるぐる回って入ってくる。

西口は、はっきりとした表情を持っていた。

東口、南口などと比較して見ると、よくわかるが、西口だけが特徴のある場所だった。多くの人の思い出を受け止めたくれる個性的な広場だった。

これを失うのはなんとも残念だ。

 

建築家坂倉準三は、渋谷駅も設計しているが、その次に依頼されたのが、新宿西口だった。他のどこにもない、独特のデザインだった。

 

 

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コメント: 3
  • #1

    yoshi (火曜日, 28 2月 2023 11:05)

    過日の小川格講演会でこの場所に在るこの作品の作者を知った。演者の仰る通り作品の作者の想いを知ることでこの辺りを歩く時、精一杯の見栄を張って歩く自分がいたかも知れないと思うと、実に楽しくなる‼️

  • #2

    小川 格 (火曜日, 28 2月 2023 11:25)

    共感していただいて、嬉しいです。都市の中にこんな話が埋め込まれていることが都市の楽しみなんだと思います。

  • #3

    MIDORI KOBAYASHI (水曜日, 01 3月 2023 22:59)

    新宿の目の作者、宮下芳子さんの作品の意図のお話、初めて知りました。
    ご紹介、ありがとうございました。
    多くの人に宮下さんの作品の考えが知られていれば、もっと西口は優しい場所になっていたと思いました。(実は私にとっては、睨まれているような怖い作品でした。でも、今は違います。)

案内する人

 

宮武先生

(江武大学建築学科の教授、建築史専攻)

 「私が近代建築の筋道を解説します。」

 

東郷さん

(建築家、宮武先生と同級生。)

「私が建築家たちの本音を教えましょう。」

 

恵美ちゃん

(江武大学の文学部の学生。)

「私が日頃抱いている疑問を建築の専門家にぶつけて近代建築の真相に迫ります。」

 

■写真使用可。ただし出典「近代建築の楽しみ」明記のこと。