建築写真の常識と非常識

 東郷:久しぶりに強烈な批判の書き込みをもらったなあ(ブログの最後参照)。

 恵美ちゃん:そうですね。「yoshiryu 老師」と署名があるから、そこそこ年配の人なんでしょうね。

 東郷:われわれは、素性を証して書いているのに、自分は身を隠して石を投げてくるみたいで、ちょっと気に食わねえなあ。

 宮武:「責任を持って、真相を突き止め、物事の背景を分析した体験からの理論を展開してください」と立派なことを書いているね。

 東郷:気に食わなかったら、どこが間違っている、と具体的に指摘すべきだと思うけどねえ。

 宮武:ここでは、立派な理論を展開する気はないし、多くの建築好きの人たちにちょっと楽しい話題を提供して、もっと建築を好きになってほしいと思っているだけなんだけどねえ。

 

 恵美ちゃん:写真についてはどうですか?「建築写真を一から勉強してください」と書かれていますけど。

 東郷:昔から建築写真という分野があって、他の写真とは違う常識が支配しているのはもちろん知っているよ。建築雑誌や作品集がその手の写真で作られているのは建築界の常識だ。

 恵美ちゃん:建築写真て、他の写真とちがうんですか?

 東郷:垂直と水平を維持すること、見上げても垂直線が平行になるように撮る、カメラマンはこれを「あおりを効かせる」というけど、このへんが素人には撮れないので、建築写真家という特殊な分野ができたんだ。

 恵美ちゃん:特別なカメラを使うんですか?

 東郷:ジナーとかリンホフとか蛇腹式の大きなカメラで、フィルムも1枚ずつケースに入っているんだ。

 恵美ちゃん:いろんな道具がいるんですか?

 東郷:三脚もでかいし、交換レンズも沢山必要だ。フィルムも20枚、30枚持っていくと、カメラバッグはすごい重さになる。

 恵美ちゃん:写真撮るだけでそんなに大変なんですか?

 東郷:一枚撮るために1時間も2時間もかかることがあるんだ。光の方向、影の具合、明るさなど天気の具合などがよくなるまでじっと待つ、建築写真家は大変な努力をしていることはたしかだ。

 恵美ちゃん:どんな人がいるんですか?

 宮武:戦後の建築写真家としては、平山忠治、二川幸夫、村井修をはじめとして、いろんな人がいたなあ。アメリカから帰ってきて、桂離宮を撮った石元泰博という人もいた。

 恵美ちゃん:カメラマンによって写真に違いがあるんですか?

 東郷:二川さんは、建築の真っ正面にカメラを据えて、とっても強い写真を撮るのを得意とした。これが丹下さんの建築にピッタリだったんだ。村井さんは優しい写真を撮ったなあ。

 恵美ちゃん:今でもみんなそんな写真を撮っているんですか?

 宮武先生:そうだねえ。そんな建築写真を撮ってもらうことを前提にして設計していたと思われるのが、丹下健三、篠原一男、安藤忠雄、といった建築家だ。

 東郷:こういう建築家が世にでるのに建築写真の果たした役割は大きいなあ。

 恵美ちゃん:いまでもそういうことは続いているんですか?

 東郷:いや、今はデジカメが主流になってきたから、フィルムを使う人がほとんどいないと思うよ。デジタルのデータならパソコンで自由に歪みを直せるし、自由に加工できるからね。

 恵美ちゃん:あら、パソコンで加工しているんですか?

 東郷:例えば、建築のすぐ上に電線が通っていて、どうしても避けられないようなとき、パソコンで修正するのは簡単だからねえ。

 

 恵美ちゃん:じゃあ、私たちの写真はどうなんですか?

 東郷:うん、このホームページ全体を見直してみたら、かなり、ひどい写真もあるねえ。批判されてもしかたない、という写真もあるよ。確かに、修正したり、取り直したいものもある。

 宮武先生:そうだね。われわれは、写真の質にちょっと無神経だったかもしれないなあ。

 恵美ちゃん:この機会に修正してみませんか?

 東郷:そうしよう。

 

 恵美ちゃん:ところで、建築写真はこれからも生き残れるんですか?

 東郷:時代が変わったからねえ。デジカメなら素人でも十分撮れるからなあ。

 宮武先生:建築写真を発表する場所も雑誌だけではなくなってきたし、特にネット上のHPやブログに載せるのに、そんなおおげさな写真は必要ないし、だれでも気楽に撮って楽しめばいいと思うよ。

 東郷:ズームレンズの望遠を使ってディテールを撮ったり、広角レンズで室内をダイナミックに撮ったり、いろんな楽しみ方があるからねえ。

 恵美ちゃん:動画はいかがでしょうか?

 東郷:建築を動画で撮る、じつはこれが意外と面白い。特にインテリアは分かりやすい。

 宮武先生:最近はドローンを使って気軽に上空からの写真を撮ることができるようになった。ヘリコプターを1回チャーターすると何十万円もするからねえ。ドローンは便利かもしれないねえ。

 恵美ちゃん:わたしも、自分らしい、楽しい写真を撮ろうと思います。

 宮武先生:そうだね。一昔前の「建築写真」の常識に囚われないで、自由に写真を楽しみたいね。

 東郷:それでこそ、建築の新しい魅力の発見もあるんじゃあないかなあ。昔の建築家の中には、美しい写真を撮ることを目標にして設計しているような人もいたんだけど、写真が変われば、建築家ももっと自由に設計できるようになる、写真が建築を変えると言っても過言ではない。

 恵美ちゃん:写真がますます面白くなってきました。いっぱい撮ってきますから、見てくださいね。

 

案内する人

 

宮武先生

(江武大学建築学科の教授、建築史専攻)

 「私が近代建築の筋道を解説します。」

 

東郷さん

(建築家、宮武先生と同級生。)

「私が建築家たちの本音を教えましょう。」

 

恵美ちゃん

(江武大学の文学部の学生。)

「私が日頃抱いている疑問を建築の専門家にぶつけて近代建築の真相に迫ります。」

 

■写真使用可。ただし出典「近代建築の楽しみ」明記のこと。